2018-3-30

気軽に歌会「LINE短歌」 SNSが紡ぐ短歌ニューウェーブ

SNSの普及で「書き言葉」と「話し言葉」の境界が曖昧になりつつあるこの時代。若年層の間で密かな注目を集めているのが短歌だ。
2018年2月8日に下北沢の本屋B&Bで催された短歌のトークイベントでは、参加者の募集告知が直前だったにもかかわらず、客席は満員となる盛況ぶり。
また全国各地の大学では短歌会が設立されており、2015年から始まった「大学短歌バトル」はインターネットでも生中継される人気イベントにまで成長した。


結社や文語体といった古風なイメージを払拭するような、新たな「インターネット短歌」の流れはブログやTwitterのみならず、InstagramやLINEなどにまで裾野を広げ始めている。

今、短歌の世界で何が起きているのか? SNSで広げる短歌の現在形を探るべく、様々な歌人から話を聞いた。

話し言葉や大喜利風でOK? 多様化する短歌の質と場

提供:野口あや子さん 撮影:三品鐘


「インターネットの普及によって“難しい言葉を使う短歌”というイメージが打破され、話し言葉や大喜利のようなキラーフレーズを用いた短歌が増えているように感じます」と語るのは歌人の野口あや子さん。

野口さんは2010年の23歳の時に歌集『くびすじの欠片』で第54回現代歌人協会賞を歴代最年少で受賞。現在でも第一線で活躍する彼女はSNSによって様々な背景を出自とした詠み人が増えたと述べる。
これまで専門的な知識やキャリアが必要と考えられがちな短歌の世界において、簡単に発表・交流が可能なSNSの出現は、新しいジャンルの短歌が生まれるきっかけになっているそうだ。
野口さんはこうした新たな短歌のひとつに「BL短歌」をあげる(BL=男性同士の同性愛をテーマにした作品のジャンル)。

「これまで短歌は男女の恋愛を詠む歌が多かったのですが、BLという概念が生まれたことで新たな短歌の捉え方が生まれました」

こうした新たなジャンルの誕生によって、これまで短歌に興味を持たなかったような人たちにも少しずつ接点が生まれるようになったのだという。若年層に短歌が注目を浴びる背景にはこのような短歌の多様化が大きく関わっているようだ。

発表の場としてのTwitter、批評・訓練の場としてのLINE

神戸大学短歌会部長の九条しょーこさんはSNSを駆使して短歌を詠む学生のひとり。個人のTwitterアカウント上で自身の短歌を詠む一方で、LINEを利用して歌会を行なうこともあるのだという。
「大学短歌会のつながりは全国に広がっているため、遠方の人とは気軽に対面で歌会をすることができません。また大学内のサークルでも毎回全員が集まることは難しい。そうした時にLINEで歌会をすればいいんじゃないのかと思ったんです」
大学内のサークルではグループLINE、短歌ユニット「さけさけ」ではビデオ通話を利用して歌会を行なっているそうだ。

Twitter、LINEは用途や相手によって使い分けるのだと九条さんは言う。
「Twitterの長所はより多くの人に自分の作品を見てもらえること。また距離の離れた人ともつながることができます。一方、LINEでやりとりするのはサークルのメンバーなど普段からコミュニケーションを取っている人。お互いの癖もわかっているから、批評がスムーズにできる。何よりLINEでの歌会では発表作品にならないのは大きなメリットですね」
九条さんが「発表」にこだわるのには大きな理由がある。

短歌の公募において、そのほとんどが未発表作品しか受け付けていないため、冊子化はもちろん、ネット上でも、一度公表してしまえば、応募作には使えない。
またTwitterへの投稿の場合、多くの歌人が目にする機会となるため、投稿作品の選定には自ずと慎重になるそうだ。
「LINEでは気軽に遊んだり、ちょっとした訓練にも使えるのがいいですよね。友人と『5・7・5・7・7』で言葉を紡ぐ練習をしたり、Twitterで流行った“いちごつみ”という遊びをしたりしています」(いちごつみ=リレー形式で短歌を詠みあい、前の人の短歌から一語を組み込んでいく短歌遊び)
Twitterで流行した遊びを、気の置けない友人と気軽にできることもメリットだという。

LINEでの「いちごつみ」の様子
※提供者のご希望で一部モザイクをかけております。 提供:九条しょーこさん

LINEでの交流は大学短歌会のみならず社会人の歌人たちにも広がっている。
「LINEでの題詠リレーはライブ感があって瞬発力を高めるには最適」と話すのは歌人の市岡和恵さんと原田彩加さん(題詠リレー=題を決めて互いに短歌を詠みあうこと)。
2人は短歌ユニット「甘夏会」にて、これまではメールで行なっていた即詠会を、LINEの即時性やグループトークによる一体感から、LINEで行なうようになったそうだ。
「題と提出された短歌をノート機能でまとめれば、一覧で見返すことができてとても便利ですね。また即詠に限らず温めていた短歌を一旦見てもらう機会にもちょうどいいと思っています」
と話す市岡さんは題詠リレーで制作した短歌が新聞歌壇に掲載されたこともあるのだという。若年層から広がったSNSの「外」と「内」の使い分けも、幅広い層に徐々に定着してきたようにも感じられる。

LINEでの即詠リレーの様子 提供:市岡和恵さん

時代とともに変わる短歌の可能性

「Instagramを使って短歌を発表している人も多いです」と教えてくれたのは歌人の枡野浩一さん。
枡野さんは2004年に世界初の短歌投稿サイト『枡野浩一のかんたん短歌blog』を開設し、ネットメディアの変遷に敏感に反応してきた。最近の短歌ブームについて「短歌は汎用性があるので別メディアとコラボレーションする楽しさがあるんです。それが最近の若者人気に繋がっているんじゃないかな」と読み解く。
実際にInstagramでハッシュタグ #短歌 で調べると数多くの短歌を見ることができるが、そのほとんどが写真と共に表現されており、短歌の表現の幅の広さを知ることができる。

枡野さん自身も映画やマンガをテーマとした歌集や、短歌をTシャツにプリントした『Tシャツ歌集』を展開するなど様々なコラボレーションを実現させた。中でも自身の短歌で作ったLINEスタンプは本人も大のお気に入りだとか。

提供:枡野浩一さん

「僕はメールやLINEのやりとりの中で自分の短歌を送ることがあるんです。普通の言葉よりも短歌の方が伝えやすい時ってあるんですよ。だから、いっそのことスタンプになっていれば便利だろうと思って。実際、お祝いや励ましの言葉を送りたい時に、よく短歌スタンプを活用しています」

枡野さんはテキスト文化となった現在において、短歌を詠む意味についてこう語る。「短歌は『5・7・5・7・7』という短い定型の中に想いをぎゅっと凝縮させるので、自分の気持ちの核を見つけることができる。情報化社会で言葉が溢れている今、あえて短い定型の短歌に想いを込めることで、自分の核心と言葉の重要性を確かめることができるはず」

SNSを開けば無限と繰り出される文字の数々。もはや真に価値のある言葉を見定めるのが難しい現代において、「5・7・5・7・7」に想いを込める短歌は自分の気持ちを正確に伝えるためのコミュニケーションツールなのかもしれない。

  • 野口あや子(のぐち あやこ)


    1987年岐阜生まれ。名古屋在住。高校在学中、第49回短歌研究新人賞を受賞。第1歌集『くびすじの欠片』で第54回現代歌人協会賞を最年少受賞。ほか歌集に『夏にふれる』『かなしき玩具譚』『眠れる海』。三角みづ紀との共著に『気管支たちとはじめての手紙』(電子書籍)。近年は朗読活動に力を入れ、機を得てフランスでの短歌朗読を行う。またエッセイ、コラボレーションも精力的に行っている。

  • 九条しょーこ (くじょう しょーこ)


    神戸大学短歌会、1996年生まれ短歌同人「ぬばたま」所属。別名義Shoco.Kで音楽活動。

  • 「甘夏会」のみなさん


    市岡和恵(いちおか かずえ)
    通訳・翻訳。「甘夏会」主宰。2011年より東直子に師事。2012年、早朝お花見をきっかけに「朝の短歌はじめました」(平日午前8時からの歌会)を思いつく。しかし朝型ではない。

    明知真理子(あけち まりこ)
    プロレスを愛するフリーライター。2014年頃から作歌を始める。

    小野田光(おのだ ひかる)
    歌誌「かばん」同人。2018年12月に新鋭短歌シリーズ(書肆侃侃房)より第一歌集刊行予定。

    高山由樹子(たかやま ゆきこ)
    歌誌「日月」所属。好きなサッカーチームはウルグアイ代表。

    原田彩加(はらだ さいか)
    高知県出身、溢れる郷土愛。第一歌集『黄色いボート』(新鋭短歌シリーズ31/書肆侃侃房)

  • 枡野浩―(ますの こういち)


    1968年東京都生まれ。歌人。1995年、角川短歌賞で落選した短歌50首が評判となり、デビュー。第一短歌集『てのりくじら』は異例のロングセラーに。初の長編小説『ショートソング』は漫画化され、アジア各国で翻訳されている。短歌以外にも詩・作詞・小説・絵本など、幅広く執筆活動中。

TEXT:大宮ガストPHOTO:鈴木渉