2018-8-28

映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』制作陣に聞く、90年代のこと LINEのこと。

時代によって変化と進化を遂げていくコミュニケーション。
その中でも90年代半ばは、東京を中心に様々な日本独自のカルチャーが生まれ、新時代への分岐点となった。

今回、韓国で大ヒットした『サニー 永遠の仲間たち』の舞台を日本に移し、その時代のファッションや音楽を散りばめて再構築したヒットメーカー・大根仁監督と、数々の名作を世に放ち続ける川村元気プロデューサー、LINEプロデューサーの谷口マサト氏の3人に、映画『SUNNY』の制作秘話を交えながら、コミュニケーション・カルチャーについてうかがった。

映画『SUNNY強い気持ち・強い愛』

空前のコギャルブームが巻き起こった90年代。そんな時代に青春を謳歌した女子高校生の仲良しグループ「サニー」のメンバー6人は、20年以上の時を経て大人になり、それぞれ問題を抱えていた。
専業主婦の奈美は、ある日かつての親友・芹香と再会するが彼女は末期ガンにおかされていた。
「死ぬ前にもう一度だけ、みんなに会いたい」。
芹香の願いを叶えるため、奈美が動き出す。
かつての仲間だった裕子、心、梅、そして奈々は再結集できるのか……。
希望にあふれた高校時代と、輝きを失った現在の、二つの時代が交差しながら物語は、いまだかつてない感動を巻き起こす。




時代を映し出すコミュニケーションのリアル

『SUNNY』は、TKサウンドやコギャルブーム全盛の90年代半ばならリメイクが成立する、ということで立ち上がった企画と聞きましたが、言葉遣いやコミュニケーションという点で、当時を再現するのにどういった部分を意識されましたか?

大根:今回、実際に「サニー」のような仲良しグループで当時コギャルだった5人組に取材したんですが、話を聞くと「とにかく話すことがいっぱいありすぎて困った」と。
でも、誰も話を聞かず、空気も読まない。みんなで一斉にしゃべって、ひっかかったことがあったらすぐつっこむ、みたいな。今の子たちは電話すらしないじゃないですか。だから、最大のコミュニケーションツールが直接の会話というところが今の世代と圧倒的に違う。

大根監督は93〜95年に渋谷で住んでいて、コギャル文化を目の当たりにしていた。
「外国文化や雑誌の真似じゃなく、彼女たち独自に生み出したカルチャーはかっこいいと思っていました」

川村:ほんとそうですよね。僕は横浜でしたが、サニーのメンバーと同世代で、コギャルたちが本当に怖かった(笑)。隅っこでこそこそ洋楽を聴いているタイプだったので……。その教室の空気感がリアルに再現されていましたね。

川村プロデューサーが大根監督とタッグを組むのは『モテキ』『バクマン。』に続いて3作目。
「90年代半ばは時代の変換点だったと思いますが、その理由はわからなかった。この映画を作ることでその尻尾が見えたような気がします」

大根:当時のコギャルのテンションを再現するのに、『egg』(90年代半ばにコギャル文化を発信していたストリートファッション誌)を創刊した編集者の米原さんに、当時の都内女子高の教室や休み時間の様子をコギャルたちが自分で撮った映像を借りて、役者たちにそのままコピーしてもらったり。やはり当時のコギャルたちの異常なハイテンションを再現するのが一番苦労しましたね。

谷口:一方で今の時代は直接会わなくても、いつでも、たとえばLINEのビデオ通話でずっとつなぎっぱなしで喋ったりできるので、当時と比べたら対面でのコミュニケーションの熱が冷めている一面があると思います。

「いまは匿名のインターネットやSNSが当たり前で、どちらかというと内面で表現する文化だと思いますが、当時は情報をすべて外にアウトプットしていたところが大きく違うと思います」と谷口氏。

大根:あの世代の子たちのテンションが、ちょっと異常なんだと思います(笑)。

川村:時代性もありますよね。90年代半ばの5年間くらいって、皆すごい浮かれていて、CDがバカ売れして、独特のファッションが流行って、なにか正体のわからない勢いがある不思議な時代で。自分の中でずっと引っかかっていたので、映画にしてみたかった。だから今回の映画は自分の過去を映像で見ているようでした(笑)

谷口:男子高校生が一切出てこないですもんね。すごく特殊な映画だと思いますが、当時の世界観がリアルに再現されているので、大人の男性でも共感できるところが面白い。

大きめのポロのニットにミニスカート、ルーズソックスなど、90年代当時現役だった元コギャルが監修に入り、当時のリアルな女子高生を再現。

現代の奈美と裕子がファミリーレストランで、スマートフォンの画面ばかりみている今の女子高生を見て「今の女子高生は静かだよね」と言っていたシーンがありましたが、今の女子高生たちにそういった印象がありますか?

大根:いや、基本的にクローズな空間で女の子たちだけがいる時のやかましい雰囲気は変わってないと思います。

川村:アウトプットする場がリアルのオフラインからオンライン上に変わっただけですよね。いつの時代も女子高生だけの流行語がある。

谷口:その中でも90年代半ばは言葉遊びが面白かった時代で、ネットが無かったからそれが全部外に出ていて、一つの文化を作っていました。今当たり前のスマートフォンやSNS、LINEがなくて過剰な感性が映像に凝縮されているから、現代の若い子が観たら新鮮で楽しめると思います。

広瀬すずさんがコギャル化していくリアルな過程が刺激的でした。

大根:渋谷で声をかけてきたサラリーマンに「うるせぇよ、1億出せ!」って啖呵切ってるシーンが撮れた時、自分の想像を超えたというかタイムスリップした感覚になりましたね。
「これこれ、昔いっぱい見た」って。あれは状況設定だけ与えて彼女たちに自由にやってもらったんですが、それまでになかったグルーヴが生まれて、撮り終わった後、みんなすごく充実している顔をしていました。

転校生の奈美(広瀬すず)が登場するオープニングシーンでは、当時大ヒットした『LA・LA・LA LOVE SONG』に合わせて総勢140名のコギャルが踊った。

もう一度「自分の人生の主役になる」というきらめき

監督は音楽を大事にされている印象を受けますが、『SUNNY』も90年代を席巻したJ-POPのヒットソングと、小室哲哉さんがオリジナルで製作した劇伴の“TKサウンド”が時代を現す大きな要素だと感じました。

大根:今回はランキングのデータをベースに、実際90年代半ばのコギャルたちが唄っていた曲を基準に選んだので僕の主観はないですが、TK楽曲の影響力はすごかったので、ど真ん中にもってきました。その楽曲選びより苦労したのはカラオケのシーン。(TRFの『survival dAnce ~no no cry more』を歌うシーンで)「監督、これイェイイェイイェイイェイイェイ、ウォウォウォウォしか言ってませんけど」みたいな(笑)

川村:そもそも『サバイバルダンス』ってどんなダンスなんだっていう(笑)。僕が高校生の頃も周りはみんなTK歌ってましたね。『WOW WAR TONIGHT』とか。
いま考えると小室さんの楽曲は擬音が多い。

谷口:さきほどの話に繋がると思いますが、歌詞における言葉選びも時代を表していると思います。この時代は、まず語感から感じる勢いがあった。

川村:それに加えて、安室奈美恵さんに象徴されるように、それまでの「恋人のことが好きでたまらない」的な表現だけではなく、女性の生き様や自立心もテーマになった。そこは今に繋がっていると思います。

大根:男女雇用機会均等法が85年だから、10年かけて出てきた新しい世代の「強い女性像」が当時にはありましたね。もう男頼りで生きていけないという。

カラオケシーンでは90年代当時に使われていた有線マイクの機械が使用された。リハーサルから本気で歌い踊ったため、歌い終わる度に全員の息があがっていたとか。

毎回、監督の映画は小道具等のディテールへのこだわりが楽しいですが、川村さんからリクエストされるのでしょうか?

川村:大根さんはディテールオタクなので、言わなくてもできあがってます(笑)。どちらかというと大根さんのそういった偏愛マインドが活きる題材を選んでいるかもしれないですね。

大根:黒澤明監督が『七人の侍』をつくる時「本物の時代劇を創る!」という号令のもとに細部までこだわって制作したというエピソードがあるんです。だから、俺も「本物のコギャルを創る!」ってリアルに再現したんですけど、褒められないだろうな……。

一同:(笑)

谷口:ヒステリックグラマーのショッパーが出てきた時に、「おー!」とグっときました。小道具で誤魔化さず実物が出ることで物語に説得力が生まれますね。

大根:『ミジェーン』『アルバローザ』の当時のショッパーとか現物を手に入れるのが大変でした。プリクラも当時の機種を北海道から取り寄せて、送料がものすごくかかったり。

川村:あと、三浦春馬さんの髪型としゃべり方も「おおっ」ってなりますね。

大根:当時みんなキムタクの真似していたっていう。ぜひ本人に観て欲しいですね。

「半年違えばファッションが変わる渋谷で、嘘がつけない近過去のディテールを再現するというのが、本当に難しかった」と大根監督。

劇中に当時流行していたインスタントカメラの「写ルンです」もたびたび登場しますが、今はスマートフォンで気軽に撮影して加工するのが当たり前になっています。

大根:今のスマホカメラのルーツですよね。それまでカメラは一家に一台、お父さんのものだったけど「写ルンです」が登場して、誰でも気軽に撮れるようになった。コギャルは「自撮り」で自己表現を始めた最初の世代だと思います。

川村:しかもそれに落書きするからコミュニケーションツールになって、カルチャーが生まれた。今の時代は、スマホで大量に撮ってベストショットだけSNSに残せたりしますが、当時は半目になっていたり、ピンぼけして写っていなかったり「見たくないもの」まで残る。それがカメラロールじゃなく実家とかにあって、手繰り寄せないと見られないから美化される。

谷口:そのかけがえのなさが老若男女に響くんでしょうね。フェイスブックで演出された近況を見るのではない、リアルな姿と閃光のように眩しい思い出に。

大根:その光が強かった分、それを忘れてしまった現状の影が濃くなる。それを抱えながら、もう一度「自分の物語の主役になる」ことが、この映画の根幹にあるテーマだと思います。

川村:確かに。この映画は90年代ノスタルジー映画じゃない。誰もが何十年経ってもすがっている過去や「あの時こうしていれば」という後悔がある。その業の深さに立ち返りながらも、“今”の瞬間を生きる実感の大切さが散りばめられています。

オリジナルにはない要素として、総勢200名による圧巻のラストシーンが加えられている。

「良いことも悪いこともすべてはLINEから始まる」

現代のシーンでスマートフォンが出てきますが、もし高校時代に持っていたらどう使っていたと思いますか?

大根:普通に使っていたと思いますが、無くて良かったと思います。今の子たちが可哀想という話ではなく。俺たちの世代はスマホとか情報がとにかくなかったから、音楽でも映画でも現場に行って体験して確認するしかなかった。それが今の糧になっている部分があるので。

川村:僕は高校時代の暇な時間に、レンタルビデオ屋に行って年間300本くらい映画を観ていたんですが、それが100本以下になって、この仕事に就いていなかったと思います。だってスマホの中でもLINEはすごく面白いじゃないですか。「既読」というのが発明で、返信が返ってくるまでの間だとかピンポンゲーム的なところがあるからやめられない。当時あったら、ずーっとやっていたと思います。

大根:ストーリーテリング的には男女のすれ違いや偶然が起こりづらくなったので、困っている部分もあります(笑)

川村:脚本家の方が迷惑しているってよく聞きますね。でも監督は『モテキ』の時に、逆にスマホの画面をガンガン入れてましたね。TwitterのDMをグラフィカルにみせて。あれは新しい表現だと思いました。

「MVや、フジロック・フェスティバルのステージ脇のモニターだったり、スマホを意識した縦長の映像表現が、ひとつのスタンダードになりつつあります」と川村プロデューサー。

普段LINEはどのように使われてますか?

大根:仕事もプライベートもメインの連絡ツールとして使っています。

谷口:お二人もLINE上で打合せとかされますか?

川村:しますね。パソコンを開いて打つって行為は、理性的な行動ですけど、スマホで使うLINEは感覚的じゃないですか。だから真面目な話だけじゃなく、気分を表すのに最適なツールだと思います。大根さんの愚痴はほぼLINEできますね(笑)

谷口:(笑)。最近はビデオ通話も使われ出していますが、たとえば飲み会に参加できなかった人に、ビデオ通話にして参加メンバーをみせたりとか、映像的なコミュニケーションツールにもなっていると思います。

大根:確かに参加できなくなった人がそれで参加したりすることがありますね。まだまだ使い方に可能性があると思います。

谷口:違う世代とLINEでコミュニケーションをとる時に違いを感じることはありますか?

大根:LINEに限ってはないですね。

川村:そこがいいところかもしれない。どんな世代でもフラットな関係になれる。

大根:個人的にLINEが登場して一番良かったのは、圧倒的に女の子の連絡先が聞きやすくなったことかな。

谷口:それは聞き捨てならないですね(笑)

大根:まぁ良いことも悪いこともすべてはLINEから始まるんです。

一同:(笑)

「LINEがある現代も、なかった90年代も、その時代だからこそ生まれるカルチャーがあると思います」と大根監督。

  • 大根仁

    映画監督。1968年生まれ、東京都出身。ADとしてキャリアをスタートさせ、2010年、ドラマ『モテキ』(テレビ東京)でブレイク。その後、映画『モテキ』(11年)、『バクマン。』(15年) 、『SCOOP!』(16年)、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』とヒット作を連発。
    twitter:https://twitter.com/hitoshione

  • 川村元気

    映画プロデューサー/小説家。1979年生まれ、神奈川県出身。『電車男』(05)、『告白』『悪人』(10)、『モテキ』(11)、『君の名は。』『怒り』(16)など数々のヒット作をプロデュース。著書に『世界から猫が消えたなら』、佐藤健、高橋一生出演で映画化された『億男』(10月19日公開)等がある。

  • 谷口マサト

    LINE株式会社 チーフプロデューサー/マンガ原作者。1972年生まれ、滋賀県出身。SNSで話題になった様々なWebコンテンツをプロデュース。『バカ日本地図』『コンテンツマーケティングの新常識』などの書籍を7冊出版している。
    twitter:https://twitter.com/chakuriki

TEXT:藤谷良介PHOTO:是枝右恭

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